本稿の概要 |
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⏵実家を売却しようとしても、接道や擁壁、セットバックなどの法的条件を満たしていないと「再建築不可」となり、売却価格が下がったり売れ残ったりするケースがある。 ⏵再建築不可物件は住宅ローンが使えず、一般の買主には売りにくいのが現実。その場合は仲介にこだわらず、買取会社による直接買取という方法を選ぶことでスムーズに売却できる。 ⏵実家売却には譲渡所得税がかかるが、「空き家の3,000万円特別控除」で税負担を大幅に軽減可能。ただし、条件が複雑。専門家に相談しながら進めることが成功のカギ。 |
相続した実家を「売ろう」と思っても、思ったように進まないケースが少なくありません。
「接道条件を満たしていない」「擁壁が傾いていて危険」「セットバックが必要」―― こうした法的な制約があると、建て替えができなかったり条件が厳しくなったりし、買い手が見つかりにくくなるのです。
さらに、売却益にかかる「譲渡所得税」や空き家に適用できる「3,000万円特別控除」など、売却前に知っておきたい税制もあります。
本記事では、空き家になった実家を売却する際に直面しやすい障壁と、関連税制の基礎知識をわかりやすく解説します。
相続した実家を売却したいけど「売れない」こともある?
「実家を売って資金に変えよう」と思っても、実際にはすんなり売却できないケースが存在します。
両親が住んでいた家だからこそ「すぐ売れるはず」と考える人が多いですが、土地や建物の条件によっては買い手がつかない、価格が大幅に下がるといった事態に直面することもあります。
ここでは、実家が売れにくくなる代表的な要因を整理してご紹介します。
両親の住んでいた実家でも、思ったように売れないケースがある
売却がスムーズに進まない主な理由は、大きく次の3つに分けられます。
▼1.土地の法的制約
もっとも多いのが「土地に関する法的な制約」です。前面道路との接道条件を満たしていなかったり、擁壁に問題があったり、セットバックが必要だったりすると、再建築時に問題が生じます。
すんなりと建物を建て直せない土地は買い手にとって大きなリスクとなるため、購入希望者が限られ、売却が思うように進みません。
▼2.物件自体の問題
築年数が古く修繕が必要な物件、間取りが時代に合わない物件、あるいは耐震性に不安がある物件も、売れにくい代表例です。
買主は購入後にリフォームや改修費用を負担する必要があるため、購入を敬遠しやすくなります。
▼3.心理的な問題
買主が心理的に抵抗を感じるケースもあります。
とくに親御さまが自宅で亡くなったケースでは、「発見が遅れた」などの状況しだいでは売主側は、心理的瑕疵の「告知事項」に該当し、その事実を告知する必要があります。それを踏まえ、購入を敬遠する買主もいます。
さらに売主側も「思い出の詰まった実家を安く売るのは気が引ける」と感じ、価格交渉が進まないことがあります。
大切なのは「売れない可能性もある」と理解したうえで、困った場合はすぐに専門家に相談しながら次のステップを考えることです。
とくに「建て替えできない土地」は要注意
売却が難しいケースの中でも「建て替えできない土地」はとくに注意が必要です。買主にとって大きなデメリットとなるため、売却のハードルが一気に高まります。
では、具体的にどんな「デメリット」があるのでしょうか?
▼住宅ローンが組めない可能性が高まる
不動産を購入する際、多くの人は住宅ローンを利用します。しかし、再建築ができない土地は担保としての評価が著しく低いため、金融機関が融資を認めないケースがあります。
結果として、買主は現金一括で購入するしかなく、購入できる人の数が大きく制限されてしまいます。
▼大規模なリフォームも困難
さらに厄介なのは、大規模なリフォームも困難なところです。建築確認(行政の建築許可審査)で非承認となるケースが多いでしょう。
建て替えができない以上、現在の家を使い続けるしかありません。しかし老朽化が進めば安全性のリスクが増し、大規模なリフォームなしでは住み続けることが難しくなります。
そのような物件は、買い手を見つけるのが簡単ではありません。結果として、通常の土地に比べて売却価格を大幅に下げ、買い手を探すことになります。
実家の売却の壁になる3つのチェックポイント
実家を売却するときに注意すべき主な障壁を3つご紹介します。
- 接道条件を満たしていない土地
- 傾いた擁壁がある場合
- セットバックが必要なケース
上述の中でも最初に確認していただきたいのが「接道条件」です。この条件にひっかかると「新しい建物を建てられない=再建築不可」となり、売却が一気に難しくなります。
接道条件を満たしていない土地
接道条件を満たしていない土地は、売却の大きな壁になります。なぜなら「再建築ができない土地」と判断されてしまうためです。
▼接道義務とは
建築基準法では「建物の敷地は、幅4メートル以上の道路に2メートル以上接していなければならない」といった趣旨の接道義務が定められています。
これは災害時の避難や緊急車両の通行を確保するためのルールです。条件を満たしていない土地は、原則的に新築や建て替えができません。
具体的には、次のようなケースがあります。
- 道路に接していない (袋地):敷地が他の土地に囲まれ、公道に出られない
- 接道している間口が2メートル未満:救急車や消防車が入れず、避難路としても不十分
- 接している道路が法律上の道路ではない:一部の私道や農道など、見た目は道路でも法的には「道路」と認められない
このような場合、接道条件を満たすまでは行政から建築確認が下りないため、新築や建て替えができません。
住宅ローンを組むのも難しくなり、買い手は「現金で購入できる買主」しか対象になりません。そのため売却価格が大幅に下がったり、そもそも買い手が見つからなかったりするリスクがあります。
▼接道条件を満たしていない場合の対策
接道条件を満たしていない土地の売却を検討する際には、まず不動産会社に相談し、その土地が「再建築不可」に該当するかを専門的に判断してもらいましょう。
もし再建築不可と診断された場合は、「仲介」ではなく、「買取」を得意とする不動産会社に直接買い取ってもらうという選択肢が現実的です。
東急株式会社「住まいと暮らしのコンシェルジュ」では、仲介はもちろん、買取に強い不動産会社のご紹介も可能です。接道の状況に不安がある方は、お気軽にご相談ください。
傾いた擁壁がある場合
傾いたり古い擁壁がある土地は、売却の大きな障害になります。なぜなら、条例や安全性の基準を満たしていない可能性が高く、買主が住宅ローンを組めない原因になるからです。
擁壁とは、高低差のある土地で土砂崩れを防ぐために設けられたコンクリートなどの壁のことです。とても重要な役割を担っていますが、老朽化したり傾いたりしていると、次のような問題が生じます。
安全性の懸念 | 崩壊のリスクがあるため、買主は安心して住むことができない。災害時の安全を重視する人にとっては、購入を避ける大きな理由になる。 |
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建築確認非承認 | 擁壁が安全と認められない場合、建て替える際に建築確認許可が下りない。金融機関はこのような物件に住宅ローンを出さないため、買主が購入しづらくなる。 |
多額の工事費用 | 擁壁をやり替える工事には数百万円単位の費用がかかることもある。買主が費用を負担する場合は、その負担の大きさから購入を断念するケースが多い。 |
こうした理由から、傾いたり古い擁壁がある土地はそのままでは売れにくいのが現実です。
売却方法としては大きく2つの選択肢があります。
売主負担で工事 | 擁壁工事を売主がおこない、安全性を確保してから一般の市場で売却する方法。工事費用はかかるが、その分、相場に近い価格で売れる可能性が高まる。 |
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現状のまま売却 | 傾いた擁壁があることを前提に、価格を下げて売却する方法。工事費用分を差し引いた価格で売り出すことで、買い手が見つかりやすくなる。 |
擁壁の問題は「安全性」と「費用」の両面から買主に敬遠されやすいため、早めに専門家に相談して、診断を依頼することが大切です。
そのうえで、工事をおこなうのか、もしくは現状のまま売るのかを判断するとスムーズです。
セットバックが必要なケース
セットバックが必要な土地も、売却価格が下がったり、そもそも売却自体がしづらくなったりします。理由はシンプルで、建物を建てられる有効な敷地面積が減ってしまうからです。
「幅4メートル未満の道路」に面した土地は、建て替えや新築をする際に敷地(建築に用いる土地)を道路の中心線から2メートル後退させる必要があります。
これが不動産用語で言う「セットバック」です。セットバックが必要な土地は、意外と多く存在し、次のような問題点を抱えています。
有効面積の減少 | セットバックした部分は道路と見なされるため、建物はもちろん塀や門、駐車スペースを設けることもできない。結果として、利用できる土地の面積が減る。 |
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売却価格の低下 | 使える土地が少なくなるため、土地の価値自体が下がりやすい。買主も「強制的に狭くされた」と感じるため、売却価格も下がる傾向がある。 |
心理的な障壁 | 買主は「自分の土地なのに自由に使えない部分がある」ことに抵抗を覚える場合がある。測量が必要な場合は、手続きの煩雑さも購入をためらう要因になる。 |
セットバックが必要な土地は「面積が減る」「価値が下がる」「心理的に敬遠されやすい」という3つのハードルを抱えています。
売却を検討する際は、不動産会社に相談して正確な寸法やセットバック条件を確認し、価格設定や売却戦略を慎重に立てる必要があります。
建て替えできない実家はどう売却する?
ここまで見てきたように、接道や擁壁、セットバックの問題がある土地は「建て替えができない」と判断されることがあります。
では、そうした実家は実際どうやって売却すればよいのでしょうか。―― まず理解しておきたいのは、一般の買主には売りにくいという現実です。
一般の買い手には売れにくい
建て替えができない実家は、一般の買主には非常に売りにくいです。その主な理由は、大きく2つあります。
▼1.住宅ローンが組めない
繰り返しになりますが、多くの金融機関は「再建築ができない土地」を担保として評価しません。
そのため買主は住宅ローンを利用することが困難になり、選択肢が「現金一括での購入」に限られる場合があります。
すぐに現金で数百万円から数千万円を用意できる人は少ないため、購入できる層が極端に狭まります。
▼2.解体して建て替えができない
建て替えできない建物は、老朽化しても、文字どおり解体して建て直すことができません。
買主に残される選択肢は「老朽化した建物をそのまま使う」か「小規模のリフォームを繰り返す」か、あるいは「建て替えができない理由を解消する」かです。
しかし、リフォームを繰り返したり問題を解消したりするには、まとまった資金が必要です。こうした制約が購入のハードルをさらに高くしています。
その結果、売却価格は通常の相場より大幅に安くなるのが一般的です。
不動産会社や買取会社に相談しよう
建て替えができない実家は、一般的な仲介では買い手が見つかりにくいものです。
そのため、不動産会社や買取会社に直接買い取ってもらう「買取」という方法が有効な選択肢になります。
▼仲介と買取の違い
まずは「仲介」と「買取」の違いを整理してみましょう。
仲介 | 市場に出して広く買主を探す方法。運がよければ相場に近い価格で売却できるが、再建築不可物件の場合は買い手がなかなか見つからず売却期間が長期化、あるいは売れ残るリスクがある。 |
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買取 | 不動産会社が直接買い取るため、買主探しが不要で、契約から決済までが短期間で済む。売却後の不具合について売主が責任を負う必要もなく、トラブルが少ないのが特徴。 |
買取は建物や土地を現状のまま買い取ってもらえるので、解体やリフォームの負担もありません。ただし買取価格は市場相場の5~7割程度に抑えられるのが一般的です。
再建築不可物件のように仲介で売れにくいケースでは、多少価格が下がっても、確実に早く売却できる「買取」を選ぶことが現実的な解決策になります。
▼なぜ、買い取ってもらえるの?買取再販とは
「建て替えできない家」をなぜ買取会社が買い取ってくれるのか、不思議に思う方もいるかもしれません。その理由は「再販・運営」ビジネスにあります。
不動産買取会社は物件を買い取り、安全性を確保する工事やリフォームを施したうえで再び市場に出します。具体的には、こんな活用方法があります。
- リフォーム・リノベーション後に再販
- 更地化して販売
- 賃貸物件として活用
- 社宅や社員寮として活用
- 接道要件を満たす隣地も買い取り、一筆にまとめる
つまり、買取を得意とする不動産会社は再建築不可物件の活用方法に精通しているため、一般の買主には難しい取引でも成立させるノウハウを持っているのです。
売却が難しい物件は、仲介だけでなく買取も視野に入れ、複数の不動産会社に査定を依頼し、それぞれの提案や査定額を比較検討するとよいでしょう。より納得のいく売却につながります。
不動産会社を探したい方は、東急株式会社「住まいと暮らしのコンシェルジュ」にご相談ください。複数社による査定や、会社選びもお手伝いします。
実家を売却したときの「税金」についても基本を押さえておこう
実家を売却する際、忘れてはならないのが「税金」です。売却益が出た場合には譲渡所得税がかかりますが、計算方法や税率にはルールがあります。まずは基本を押さえておきましょう。
譲渡所得税の基本(短期・長期で税率が違う)
実家を売却して利益が出た場合、その利益に対して「譲渡所得税」という税金がかかります。課税されるのは売却金額そのものではなく、売却によって得た「利益 (儲け)」部分です。
計算式は次のとおりです。
「売却金額」は、実際に売れた価格です。「取得費」は購入時の費用(土地・建物の購入代金、仲介手数料、印紙税など)で、不明な場合は売却金額の5%を「概算取得費」として計算できます。
「譲渡費用」は、売却のためにかかった費用(仲介手数料、印紙税、測量費用など)です。「譲渡所得」から各種の控除や特例を差し引き、税率をかけて最終的な税額が決まります。
税率は不動産の所有期間によって大きく変わります。判定は「売却した年の1月1日時点での所有期間」を基準とします。
- 長期譲渡所得 (所有期間5年超え):税率20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)
- 短期譲渡所得 (所有期間5年以下):税率39.63%(所得税30%+住民税9%+復興特別所得税0.63%)
このように、同じ金額で売却しても、所有期間によって税率が倍近く違うことになります。ですから、売却時には「いつ購入したか」を確認することが大切です。
計算が複雑と感じる場合は、税理士や税務署に相談すると安心です。
空き家の3,000万円控除とは?
「空き家の3,000万円特別控除」とは、相続で得た空き家を売却した際に売却益から最大3,000万円までを差し引ける制度です。
これにより譲渡所得税の負担を大幅に減らすことができますが、適用には厳しい条件があります。
この特例は、旧耐震基準の空き家を減らすために設けられています。大地震で半壊・倒壊する可能性の高い家屋の減少や、土地の有効利用を進めることが目的です。
たとえば、相続した実家を2,500万円で売却し、取得費や譲渡費用を差し引いた後の売却益が2,000万円だったとしましょう。
この特例を使えば、2,000万円の売却益から3,000万円まで控除できるため、譲渡所得はゼロとなり税金はかかりません。
ただし、この控除を使うには複雑な条件を満たす必要があります。詳しくは、以下の記事をご覧ください。
空き家の3,000万円控除は非常に大きな節税効果がありますが、条件や必要書類が多く、専門的な知識と判断が欠かせません。
実家の売却を検討する際には不動産会社や税理士などに相談して、適用できるかどうかを確認することをおすすめします。
まとめ:実家を売却する前にやるべきこと
相続した実家を売却する際には、接道・擁壁・セットバックなど、法的な制約や土地の状態を必ず確認しておきましょう。これらに問題があると建て替えや売却ができない可能性があります。
また、再建築不可の物件は一般の買主には売れにくく、仲介だけでは難しい場合があります。そのようなときには、「買取」といった選択肢を検討するのが現実的です。
とは言え、専門的な判断をすべて自分だけでおこなうのは簡単ではありません。専門知識を持つ不動産会社に相談し、仲介と買取の両方の選択肢を比較することが、納得のいく売却への近道です。
東急株式会社「住まいと暮らしのコンシェルジュ」なら、仲介による売却はもちろん、買取に強い不動産会社をご紹介できます。不動産会社選びのサポートもお手伝いいたします。
さらに、税金面についても税理士やファイナンシャルプランナーなどの専門家と連携しながらサポート可能ですので、安心して実家の売却を進められます。まずは、お気軽にご相談ください。