本稿の概要 |
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・50年住宅ローンには、総返済額が大きくなる等のリスクがあるため、慎重に利用の可否を判断する必要がある ・50年住宅ローンには、毎月の返済額を抑えたり借入上限額を増やしたりする効果があるため、若年層の住宅取得に有用 ・50年住宅ローンを利用する際は、繰り上げ返済や借り換えなどを活用して、リスクを軽減することが大切 |
近年、超長期の住宅ローンを利用する人が増えています。住宅価格の高騰や所得の伸び悩み、長寿化を背景に、「最長50年ローン」という選択肢が広がっているのです。
しかし、50年住宅ローンには《総返済額の増加》や《金利上昇リスクの影響を受けやすくなる》などのリスクもあります。そのため、利用には慎重な判断が求められます。
「予算オーバーかな?と思っていた物件でも、不動産会社の担当者から『50年でローン組めば買えますよ』と勧められたけど大丈夫かな?」といったご相談をいただくこともあります。
本記事では、50年住宅ローンのメリットとデメリットについて詳しく解説します。ぜひ最後までご覧ください。
50年住宅ローンのデメリット
超長期ローンには、注意すべきデメリットやリスクがいくつかあります。代表的なものを5つご紹介しましょう。
- 利息の負担が増加し、返済総額が大きくなる
- 変動金利型の場合、金利変動リスクが長期間に及ぶ
- ライフプランの不確実性が高くなる
- 老後の資金づくりが難しくなる(定年後も返済が続く)
- 元金の減少が遅くなるため、売却に影響を与える可能性がある
順番に詳しく解説します。
利息の負担が増加し、返済総額が大きくなる
返済期間が超長期に及ぶと、利息を払い続ける期間も長くなり、その結果トータルの返済額が大幅に増加します。
たとえば、3,000万円の固定金利型住宅ローンを金利2.0%で利用するケースを想定してみます。35年返済と50年返済で、返済額はどう変わるでしょうか?
- 35年返済:月々約99,000円、総返済額約4,174万円(利息約1,174万円)
- 50年返済:月々約79,000円、総返済額約4,748万円(利息約1,748万円)
上述のケースでは、月々の返済額が約2万円低くなるのに、総返済額は570万円以上多くなります。同じ借入額・金利でも、期間を15年延ばすだけで利息負担が数百万円単位で増えてしまうのです。
また、50年住宅ローンは一般的な35年住宅ローンよりも金利を上乗せされる傾向があります。金利が高くなるとさらに利息の負担が増えますので、注意が必要です。
このように「月々の返済額は減るが、総返済額が増える」のが50年住宅ローンの最大のデメリットと言えます。
金利変動リスクが長期間に及ぶ
変動金利で超長期の住宅ローンを組む場合は、金利変動も大きなリスクになります。
日本では低金利が長らく続いていますが、この先は金利上昇局面が来る可能性も指摘されています。50年住宅ローンの返済期間中に、金利情勢が大きく変化するかもしれません。
変動金利型の住宅ローンは、金利が上昇すると返済額が増えます。そして、期間が長ければ長いほどそのリスクは高まります。
35年なら影響は限定的でも、50年という長さゆえに《金利上昇リスクの影響が大きくなる》点は念頭に置いておかねばなりません。
ライフプランの不確実性が高くなる
50年間というスパンは長すぎて、将来の見通しが立てづらいです。20代でローンを借りても完済時は70代。そのあいだに結婚・出産・子育て・転職など、さまざまなイベントが起こり得ます。
ポジティブなイベントばかりとは限りません。親の介護や自身の病気、休職や離職など、資産の減少につながるアクシデントに遭うリスクもあります。
それを正確に予測するのは困難で、不安とリスクを長期間持ち続けることになります。「とりあえず借りられるだけ借りておこう」と安易に超長期ローンを組むのは、非常にリスキーと言えます。
老後資金づくりが難しくなる(定年後も返済が続く)
50年ローンでは、定年退職後まで返済が残るケースが多くなります。
日本では、大半の人の所得が60代以降になると減ります。年金生活に入っても住宅ローンの返済を抱えていると、家計を圧迫するでしょう。
本来であれば現役のうちにローンを終わらせ、退職後の生活費と医療・介護費に備えて資産形成したいところです。しかし、50年住宅ローンはそれを滞らせる要因になり得ます。
老後破産を防ぐには定年前に貯蓄をする必要がありますが、それが計画どおりできなければ大きな不安要因となるでしょう。
元金の減少が遅くなるため、売却に影響を与える可能性がある
融資額が同じなら、返済期間が長いほど元金の返済ペースが遅くなります。とくに序盤は、利息支払いが中心で、元金はなかなか減りません。
もしも、途中で売却・住み替えが必要になった場合、ローン残高が思ったほど減っておらず、計画中止に追い込まれることもあり得ます。
たとえば、3,000万円の固定金利型住宅ローンを金利2.0%で利用するケースを想定してみます。返済開始10年後の借入残高は、どうなっているでしょうか?
- 35年返済の場合:残高約2,345万円
- 50年返済の場合:残高約2,613万円
10年で300万円の差が付きました。20年後も、試算してみます。
- 35年返済の場合:残高約1,544万円
- 50年返済の場合:残高約2,141万円
35年返済の場合は、借入額の半分程度を返済し終わっています。一方、50年返済ではまだ2,000万円以上残っており、約600万円の差が生じました。
超長期ローンはこのように残債の減少速度が遅いため、不動産価値の減少に先を越され、物件の売却代金でローンを完済できない《オーバーローン》状態になりやすいです。
50年住宅ローンのメリット
一方、50年住宅ローンには、以下のようなメリットもあります。
- 毎月の返済額を抑えられる
- 借入可能額が増え、希望の住宅を購入しやすくなる
- 若年層でも住宅ローンを組みやすくなる
- 団体信用生命保険(団信)に長期間加入できる
それぞれ、詳しく解説します。
毎月の返済額を抑えられる
返済期間を延ばす最大のメリットは、月々の支払い負担を圧縮できることでしょう。
もう一度、3,000万円の固定金利型住宅ローンを金利2.0%で利用するケースを想定してみましょう。返済期間の違いで、月々の返済額がどれくらい変わるのでしょうか?
- 20年返済の場合:月々約15.2万円
- 35年返済の場合:月々約9.9万円
- 50年返済の場合:月々約7.9千円
ご覧のとおり、35年返済と比べると毎月2万 (年間24万円)。20年返済と比べると、毎月7.3万円(年間87.6万円)負担が減る計算になります。
このように月々の返済額を抑えられると、日々の家計に余裕が生まれます。
借入可能額が増え、希望の住宅を購入しやすくなる
超長期の住宅ローンは、毎月の返済が少なくなる分、借りられる金額の上限が上がります。
詳しい説明は割愛しますが、金融機関ごとに返済負担率(年収に対する年間総返済額の割合)の上限を設けているため、このようなことが起こります。
たとえば、年収500万円の人が金利2.0%、返済負担率35%で固定金利型の住宅ローンを利用するケースを想定してみましょう。借入上限額の目安は以下のようになります。
- 35年返済の場合:約4,402万円まで借入可能
- 50年返済の場合:約5,528万円まで借入可能
この差額で、購入する住宅の選択肢を広げることができます (ただし、金融機関の審査があり、必ずこの金額まで借りられるとは限りません)。
若年層でも住宅ローンを組みやすくなる
まだ所得の高くない若年層にとって、住宅ローンの返済負担は軽いものではありません。50年住宅ローンは、そんな若年層に役立ちます。
50年住宅ローンなら、月々の返済額を下げつつ借入上限額を上げられます。収入がそれほど高くない若年層でも、マイホーム購入に踏み切りやすくなります。
とくに、20代で住宅を取得したい人には「魅力的な選択肢」と言えるのではないでしょうか。
団体信用生命保険(団信)に長期間加入できる
通常民間の住宅ローンは、借主に万が一のことがあった際に残債がゼロになる「団体信用生命保険 (団信)」の加入が義務づけられています。
50年住宅ローンでも、融資期間中は団信に加入し続ける必要があります。その期間中は保険の保障を受け続けられますので、《もしものとき、家族に家を残せる安心感》が得られます。
超長期ローンは返済期間が長くなりますが、保険期間も長くなるというプラス面も見逃せません。
50年住宅ローンが向いている人の特徴
つづいて、50年住宅ローンが向いている人の特徴を考察してみましょう。
メリット・デメリットを踏まえると、50年住宅ローンの利用が向いているのは《安定した収入が長期的に見込める若年層 (とくに20代)》です。
30代以降は徐々に利用しづらくなる
多くの金融機関は、住宅ローンの「完済時年齢」に制限を設けています。たとえば「80歳以下」などの条件を設けているため、50年間借りるには20代のうちに借入を開始する必要があります。
そのため「できるだけ早く家を持ちたい」「20代のうちに購入したい」という若年層が第一の候補になります。
途中で収入が減少したり途絶えたりしないことが大切
50年という超長期にわたり返済を続けるには、前提として、途中で収入が減少したり途絶えたりしないことが大切です。
ですから、雇用・収入が比較的安定している人、あるいは今は収入が低めでも今後の昇給やキャリアアップが確実な人が望ましいでしょう。
反対に、不安定な職業で先行きが読めない場合や、定年までの勤続年数が短い中高年層には適していません。
50年住宅ローンのリスク軽減策
50年ローンを利用したい場合、そのリスクを抑えるにはどうすればいいでしょうか?
ポイントは《売却が必要になった場合に備える》と《なるべく早く元金を減らす》です。具体的な対策は、以下のとおりです。
- 売却価格が下がりにくい物件を選択する
- 繰り上げ返済を活用し、返済期間を短縮する
- 定期的に条件のよいローンを探し、借り換えを検討する
- 家計の余裕資金で資産形成を図る
順番に詳しく解説します。
売却価格が下がりにくい物件を選択する
物件選びは、超長期ローンの成否を握る鍵です。返済中に価値が大幅下落するような住宅だと、オーバーローンのリスクが高まります。
ですから、売却価格の下がりにくい住宅を選ぶことが肝心です。たとえば「都心など人気エリアのマンション」「耐久性に優れた長寿命住宅」などが、比較的売却価格を維持しやすいでしょう。
住宅の価格下落が少なければ、何らかの理由で売却が必要になった場合でも、ローン残高を上回る価格で売れる可能性が高まります。
物件選定時には、地域の将来性や建物の質をしっかり見極めましょう。
繰り上げ返済を活用し、返済期間を短縮する
繰り上げ返済は、超長期ローン利用者にとって強力なリスク軽減策になります。余裕資金ができたら、適宜住宅ローンの元金の一部を前倒しで返済することで、利息の支払い総額を減らせます。
とくに《期間短縮型》の繰り上げ返済をおこなえば、借入残高と返済期間を同時に圧縮でき、総返済額の軽減効果が大きくなります。金利上昇リスクも減らせるでしょう。
定期的に条件のよいローンを探し、借り換えを検討する
ローンを利用している途中でも、より有利な条件の他の住宅ローンに乗り換える(借り換える)ことができます。
一般的に、ローン残高が多く返済期間が長く残っているほど借り換えメリット(利息削減効果)が大きくなります。そのため、50年住宅ローンの利用者は、借り換えの恩恵を受けやすいと言えます。
現在の金利や残高、借り換え時の諸費用等を考慮しつつ、定期的に市場の住宅ローン商品をチェックするとよいでしょう。
他にも、借入当初は信用力が低く金利が高めだった人が、その後の信用力向上によって低金利の住宅ローンに借り換えられるようになるケースもあり得ます。
家計の余裕資金で資産形成を図る
月々の返済額が抑えられる50年住宅ローンでは、余裕資金の有効活用も重要なポイントになります。浮いたお金を漫然と消費するのではなく、計画的に貯蓄・資産運用に回すとよいでしょう。
たとえば毎月2万円返済が安くなるなら、その分を繰り上げ返済の原資として積み立てる、あるいは「つみたてNISA」などで運用するなどの選択肢があります。
50年住宅ローンは、返済と資産形成を比較的両立しやすいローンです。余裕資金と複利を聞かせた長期投資によって、まとまった額の「繰り上げ返済資金」を準備できるかもしれません。
家計管理を徹底し、長期視点で資産づくりを進めることで、50年ローンのリスクに備えることができます。
まとめ:住宅ローンの借り方でお悩みの方はコンシェルジュへ
住宅価格が高騰する中、月々の返済額を抑えられる50年住宅ローンは、収入が高くない若年層にとって「マイホームを手に入れるための魅力的な選択肢」になっています。
しかし、一般的な35年ローンに比べリスクも大きく、総返済額の増加や定年後まで返済が続くかもしれない点に注意しなければなりません。
安易に飛びつくのではなく、メリットとデメリットを把握して、自分のライフプランに合致するか慎重に判断しましょう。
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