レジリエンス住宅とは - 激甚化する災害に負けない防災力のある家

レジリエンス住宅とは - 激甚化する災害に負けない防災力のある家

日本の住宅は台風や地震に対抗するために性能の向上が図られ、建築基準法の改正とともに強くなっています。しかし、近年は水害による被害も深刻で、被災する住宅が後を絶ちません。

台風や地震も頻発化していますので、災害に強い住宅の開発や普及が急がれています。従来の設計思想で建てた家では、気候変動により激甚化する災害に耐えられないかもしれないのです。

本稿では、対災害型住宅として注目されている「レジリエンス住宅」の概要や、長所・短所をご紹介します。

レジリエンス住宅とは

まずは、レジリエンス住宅の概要からご紹介しましょう。

レジリエンスとは



2020年に打ち上げられた米国の民間宇宙船「クルードラゴン」をご存じでしょうか。JAXAの野口聡一さんを含む搭乗員たちによって「レジリエンス」と名づけられ、注目されました。

さて、レジリエンスとはどういう意味なのでしょうか? ―― レジリエンスは物理学や心理学で使われている用語で、以下のような意味を持つ言葉です。

  • 頑健性
  • 強靱さ
  • 弾力
  • 順応力
  • 復元力
  • 回復力


レジリエンスは、さまざまなニュアンスを持つ言葉です。脆弱(ぜいじゃく)の反対の意味、と考えると分かりやすいでしょうか。

ちなみに、先ほどご紹介した「クルードラゴン」は、コロナ禍の影響を受けた世界が回復することを願って「レジリエンス」と命名されたそうです。

住宅に求められるレジリエンス



では「レジリエンス住宅」とは、どんな住宅なのでしょうか。

レジリエンス住宅には、外部から受ける力や影響に対して「しぶとさ強靱さ回復力」が必要とされています。

建築環境の総合性能評価をおこなう日本サステナブル建築協会では、以下の観点から「住まいのレジリエンス度」を確認するよう提唱しています。

  • 平常時:普段の健康・安全を高める「免疫力」
  • 災害時:災害発生時に命を守る「土壇場力」
  • 災害後:災害後の生活を支える「サバイバル力」


注目すべきは、平常時の「免疫力」でしょう。

レジリエンス住宅は対災害住宅のイメージがあります。しかし、住まいの「脆弱性」をなくすことは、災害時や災害後だけでなく日常にも求められるのです。

平常時は健康で安全に暮らせること



さて、日常にひそむ「住まいの脆弱性」とは、一体どんなものがあるのでしょうか。たとえば、こんなものが脆弱性と言えるのではないでしょうか。

  • 夏は暑く、冬は寒い
  • つまずきやすい段差がある
  • 不審者や空き巣に侵入される


このような脆弱性をなくし、普段の健康や安全を高めるには、住宅に以下の性能が求められます。

  • 低光熱費で年中快適な温度環境に保てる「断熱性」
  • 高齢者や障害のある方でも暮らしやすい「バリアフリー性」
  • 不審者や空き巣の侵入を防止する「防犯性」
  • 経済的にも環境的にもエコにできる「太陽光発電や蓄電設備」


毎日過ごす住宅の温度環境は、住人の健康に影響します。心身がストレスを感じずに過ごせ、安心安全に暮らせることも、とても大切です。

災害時には被害を防ぎ家族の命を守ること



災害時に住宅に求められるレジリエンスは、想像しやすいですよね。

まずは、台風や地震など激甚化する災害に耐える強さ。そして、火災や水害のときにちゃんと避難できる安全性など、具体的には以下の性能が求められます。

  • 建築基準法の基準を上回る「耐震性」
  • 火災時に被害(延焼や倒壊など)を抑える「防火性」
  • 台風・豪雪・洪水等、地域のリスクに合った「防災対策」
  • 整然としまえて取り出しやすい「防災グッズの備蓄」


できるだけ災害に遭う可能性が低い地域に住むのも、ひとつの方法でしょう。

災害後も素早く回復して生活できること



地震で倒壊しない頑丈な家を建てても、ライフラインが断たれれば通常の生活ができなくなります。ライフラインの復旧には時間がかかりますので、長期間不便を強いられるでしょう。

ですから、レジリエンス住宅には、被災しても通常どおり生活できる機能や設備が求められます。いくつか例をあげてみましょう。

  • 太陽光発電や蓄電池など「停電時でも使える電源」
  • 貯水槽や給湯設備の貯湯タンクなど「生活用水の備蓄」
  • 使いやすい収納スペースと「食料や飲用水の備蓄」


また、自宅で生活できる機能や設備だけでなく、容易に避難できることも大切です。

住宅のレジリエンスを高めるのに必要なこと



レジリエンス住宅は、次世代型の高性能住宅です。ZEH(ゼッチ)等の省エネ住宅を災害に対応できるように性能向上させたもの、と考えると分かりやすいでしょう。

ですから、レジリエンス住宅には以下が必要です。

  • 使用エネルギーの収支がゼロ(または、ほぼゼロ)になる仕組
  • 年中快適な温度環境で過ごせる断熱性や気密性
  • 災害時に人命を守れる高い耐久性
  • 罹災後も、長期にわたって自立した生活がおくれる機能や設備


しかし、上述のようなレジリエンス住宅を建てたらもう安心、というわけではありません。災害は「住宅の性能」だけでは乗り切れないのです。

「日常の健康リスク」や「地域の災害リスク」を住む人が認知していなければ、適切なレジリエンス住宅が建たず、その効果を発揮できません。定期的な家のメンテナンスも必要です。

まずは、既出の「日本サステナブル建築協会」がまとめた「CASBEE-レジリエンス住宅チェックリスト」で、自宅のレジリエンス度をご確認いただくとよいでしょう。

住まいの災害リスクを把握しているか、災害に対してどのような備えが必要か、気づける内容になっていますよ。

参考:CASBEE-レジリエンス住宅チェックリスト

国交省の「ハザードマップポータルサイト」もご覧ください。

お住まいの地域はどんな災害リスクがあるのか、避難ルートはどうなっているか、しっかり確認して必要な対策を考えましょう。

参考:ハザードマップポータルサイト

レジリエンス住宅のメリット

最後に、レジリエンス住宅の特徴を、メリットとデメリットの観点からご紹介します。

まずは、メリットから解説します。

  1. 被災しても家を使い続けられる
  2. 家計の節約につながる


それぞれ、詳しくご説明しましょう。

1:被災しても家を使い続けられる



特筆すべきレジリエンス住宅の強みと言えば「回復力」でしょう。激甚化著しい水害への対策を例に、レジリエンス住宅の回復力をご紹介します。

浸水しない家浮く家洗える家など、近年開発された水害対策住宅のニュースをご記憶されていないでしょうか?このような住宅は、以下の性能を持っています。

  • 水の侵入を防ぐ
  • 水が侵入しても、抜きやすい
  • ぬれても再利用できる
  • 再利用できない建材の交換が容易にできる


水害の対策がなされている住宅は、被災しても家を使い続けられる可能性が高くなっています。

一般的な住宅は、いったん浸水すると、修復して生活を再開するまでに膨大な労力と費用がかかります。一方、対策されたレジリエンス住宅なら、復旧費用が大幅に少なくて済むのです。

2:家計の節約につながる



レジリエンス住宅は、高い省エネ性を備えています。保温能力が高く、少ないエネルギーで室温を一定に保てますので、月々の光熱費が安くなります。冷暖房機器も、少ない台数で済むでしょう。

太陽光発電でつくった電気を自家消費することで、日々の電気代も抑えられます。消費電力が低いレジリエンス住宅は余剰電力を生みやすく、売電量も一般住宅より多くなるでしょう。

医療費の低減も期待できます。温度差が少ない快適な環境によって、体へのストレスが減り、ヒートショック等の一部の病気になるリスクが下がると言われています。

参考:住宅の温熱環境と健康の関連

ちなみに、国土交通省がまとめた資料によると、室温18度以下の住宅に住む人は18度以上の住宅に住む人に比べて以下のリスクがあるそうです。

  • 総コレステロール:2.6倍
  • 心電図異常所見あり:1.9倍
  • ヒートショックリスク:約1.8倍


参考:「省エネ住宅」と「健康」の関係をご存じですか?

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省エネルギー住宅と健康リスク

省エネルギー住宅と健康リスク

横浜市では省エネ住宅に関する相談に対し、アドバイスを行う「省エネ住宅相談員」という制度があります。私たちコンシェルジュの中にも登録されているスタッフがおります。今回は
昨年11月に開催された「横浜市省エネ住宅相談員登録講習会」での、「省エネ住宅」についての説明や専門家による講演の中から特に印象に残った内容をお伝えします。

現在、交通事故よりもヒートショックなど住宅の屋内の寒暖差が原因で亡くなる方の数が上回っているという研究結果から「断熱性のない家は、道路よりも命の危険性と隣り合わせである」という怖いお話しから始まりました。

このような家の中でのリスクを防止するためには、新築住宅に対して高い断熱性能が求められることは勿論ですが、ストック数が多い既存住宅(中古住宅)の環境改善対策が重要だと考えられています。
既存住宅を建て替えずに「省エネ」かつ「健康」な住まいの基本となる「住宅全体の断熱性の確保」に取り組むための補助制度なども、各行政で実施されています。

断熱性能が高い住宅の普及のためには、住宅の所有者が「省エネルギー住宅の良さ」を理解することと同時に、住宅を計画し建築する建築関連の企業も積極的に技術力を向上していくことが必要不可欠です。
様々な住宅に関するご相談を頂く私たちコンシェルジュも、住宅の性能向上についてわかりやすく説明できるよう今まで以上に知識を深めていく必要があると感じました。

住宅の省エネ化は、高断熱・高気密化を目指すところから始めます。
窓や外壁、屋根などの断熱性能を向上させて出入りする熱を減らし、室内全体を快適にします。
そうすると昼夜や部屋間の温度差が小さくなりますので、ヒートショックのリスクが抑えられ、また結露によるダニやカビの発生も減らすことができます。
その他にも、午前0時の室温が平均18℃以上の暖かい家に住んでいる人は、高血圧の発症率が低いという調査結果もありますし、暖かい家の居住者の方が身体活動量が大きい傾向にあり、認知症の発症を減少させるのではないかといった研究もされているようです。

国は、「省エネ」と再生可能なエネルギーを創り出す意味の「創エネ」を組み合わせて年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにする
「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギーハウス)」を、2030年までに新築住宅の平均で実現する目標を掲げています。

高断熱・高気密化した住宅は、夏場は外から熱を入れず、冬場は内から熱を逃がしません。
そのため、冷暖房のエネルギー消費量を削減する効果が見込めます。建築的な配慮をした上で、高効率な空調や換気、給湯、照明といった設備機器を採用すれば、エネルギー消費量をさらに減らせます。加えて太陽光発電など再生可能エネルギーを導入すれば、ZEHも可能になるのです。
家庭でのエネルギー需要が減ると、国全体での供給も抑制できます。

日本では地球温暖化による自然災害の増加および局地化・激甚化が急速に進むなか、温室効果ガスの削減も課題とされていますが、省エネ基準に関しては、他の分野に比べて住宅についての行政の動きがやや遅れているようです。

以上のように、行政側からも様々な指針が示されていますが、これからは、自分たちの健康や資産は自分たちで守る、という考えが必要なのかもしれません。住宅の性能に関して責任を取るのは、あくまで住宅という不動産の所有者である私たち自身であるという心構えでいることも大切だと思います。

新築住宅を購入する、中古住宅を購入してリフォームする、今の住まいを建て替えやリフォームする場合でも、住まい手が自身の「健康や快適さ」を理解し、その実現のために工夫していくかが大切になります。
そして、それを適切に実現していけるような専門家と協力していくことが必要になります。
私たち住まいと暮らしのコンシェルジュもお客さまにとって「健康に優しい快適な暮らし」を実現できるようなサポートができるよう、努めていきたいと考えています。

出典:よこはま省エネルギー住宅アカデミー「柔らかな教科書」(横浜市建築局住宅部住宅政策課発行、横浜市住宅供給公社編集)

2020/05/25

注文住宅

2020/05/25

レジリエンス住宅のデメリット

つづいて、レジリエンス住宅のデメリットをご紹介します。

  1. コストがかかる
  2. まだあまり普及していない


それぞれ、詳しく解説しましょう。

1:コストがかかる



じつは「年齢の若い居住者や収入の少ない居住者の住宅においてレジリエンス性が低い傾向が分かった」とする調査があります。

これは、一般的な住宅よりレジリエンス住宅のほうが高コストであることが原因ではないでしょうか。

参考:住宅のレジリエンス性と居住者の防災意識の関係評価

レジリエンス住宅は、もろもろの性能を上げるために建材費や施工費がコストアップします。被災したときに、コストアップ分を回収できる費用構造になっているのです。

ですから、レジリエンス住宅は「保険のようなもの」と見ることもできるでしょう。「問題が発生したとき、ダメージを軽減したい」とお考えの方におすすめの住宅です。

なお、コスト対策としては、補助金や減税制度を利用する方法があります。ZEH住宅対象の補助金住宅ローン控除(省エネ性が高い住宅は優遇される)を活用すると、コストの内いくらかは相殺できるでしょう。

参考:資源エネルギー庁「ZEH関連の補助事業について」
参考:国土交通省「住宅ローン減税」

ちなみに、太陽光や蓄電池等の設備は、維持管理費がかかります。とくに、故障したときは修繕や交換に大きな費用がかかりますので、その点もご留意ください。

2:まだあまり普及していない



レジリエンス住宅は、まだあまり普及していません。建てられる会社が少ないうえ、そもそも災害対策の技術自体がまだ研究途上です。

とは言え「レジリエンス住宅」は大注目のテーマです。ここ数年で、大手ハウスメーカーを筆頭に以下のような設備やサービスの導入が進んでいます。

  • 断水時に生活用水として使える雨水利用システム
  • 3電池(太陽電池、燃料電池、蓄電池)給電システム
  • 家と車(HVやPHV)をつなぎ、車から給電するシステム
  • グループ会社一丸で初動・診断・保険手続代行・補修をフォロー


住宅の災害対策は待ったなしです。法制度の整備も後押しとなり、今後はさらに商品やサービスの開発が進むのではないでしょうか。

参考:通称「流域治水関連法」が全面施行されました

【まとめ】レジリエンス住宅のご相談は、住まいと暮らしのコンシェルジュまで

台風や水害の激甚化によって、災害に強い「レジリエンス住宅」が脚光を浴びています。とは言え、まだまだ認知度が低く、取り扱いがない建築会社のほうが多いでしょう。

しかし、自然災害が猛威を振るうようなことがあれば、新築時にレジリエンス住宅を選択される方が増えると予想されます。

レジリエンス住宅に興味があるけど、どの会社に相談したらよいかわからなくて困っている」という方は、東急株式会社「住まいと暮らしのコンシェルジュ」にご相談ください。

コンシェルジュがお客様のご相談をお伺いして、お客様にあう会社探しをお手伝いします。相談料は無料ですので、お気軽にお声がけください。

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コンシェルジュ編集者

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2020/03/01